本作品は七夕をイメージして制作した
拵えになります。
鞘や柄巻に錦を使用するという
少し変わった作り方をしています。
鞘ですが、下地を銀糸を織り込んだ錦で包み、青透色を塗り重ねて仕上げました。下地となる銀糸を塗りつぶさずにあえて残すこの技法を用いると、光にあたった部分がまるで星のようにキラキラと輝きます。この青く輝く鞘で天の川を表現しました。
柄は下地に鮫皮を巻いた上から黒漆をかけ、金の錦を柄糸に仕立て、それを用いて諸撮み巻き(もろつまみまき)で巻きあげました。黒漆をかけた鮫皮の上に施される金錦糸の柄巻で空にかかる橋を表現しました。
目貫は織姫と彦星となります。後藤家五代徳乗に同様の図柄があり、それを後世に写したものと思われます。 青く光る星々からなる天の川に金色の橋がかかり、織姫と彦星がこれから出会うという様子をこの拵えで表しています。
この拵えの中身は尾張刀工 政常の剣となります。おそらく茎が折れてしまった大身槍を剣に仕立て直したものと思われます。折れてしまった槍も仕立て直して大切に保管してきたからこそ、この政常の剣は現在まで綺麗な状態で残っています。
今回の拵えに使用した金と銀の錦は中古の着物帯を再利用したものになります。ひょんなことから手に入れた着物の帯をなにかに使えないかなと思っていたところ、錦を用いた鞘塗りと柄巻の技法があることを知り、挑戦してみました。
刀剣然り、着物然り、先人たちは使えなくなったものを捨てるのではなく、仕立て直して再利用してきました。現在に生きる我々も先人に習って物を大切にしていきたいと思っています。
なかなか人と会えない世の中ですが、いつか織姫と彦星のように再会できる日が来ることを願っています。
「刀工」、「白銀師」、「鞘師」、「研師」、
「塗師」、「柄巻師」が協力して
1つの日本刀を
制作するプロジェクトが、
いよいよ始動します。
今回制作するのはこちらの日本刀になります!!
Illustrated by マツヨイ-水彩刀剣
脇差 | 銘 肥後守秦光代 号 鬼の包丁 |
長さ | 41.4cm(一尺三寸六分) |
反り | 0.4cm(一分三厘) |
身幅 | 3.6m(一寸二分) |
この日本刀は江戸時代の初期、尾張藩(現在の愛知県名古屋市)で活躍した
柳生新陰流の使い手で剣豪の柳生連也(厳包)の愛刀として知られています。
作者は秦光代という刀工で、柳生連也のお抱え工として多くの名刀を残しています。
鬼の包丁という脇差、表が切刃造り、裏が鎬造りで身幅が広く
重ねが厚いという異様な作りこみをしており、
抜群の切れ味を誇ったと伝わっています。まさに尾張で生まれた名刀であると言えます。
江戸初期に活躍した尾張の刀工。美濃関から名古屋に移住した。
柳生連也(厳包)の紹介で江戸石堂派の橘常光に作刀を学び、
柳生連也のお抱え工として彼の好みにあった日本刀を多く作刀した。
寛文年間に肥後守を受領している。
彼の作品では脇差「鬼の包丁」、大小「かごつるべ」、「笹の露」が名高い。
参考作品 脇差 秦光代
脇差 秦光代 号 柳生光代
今回の企画では鬼の包丁の拵えとして「柳生拵え」を制作します。
柳生拵えとは柳生連也が考案した拵えで、彼が学んだ柳生新陰流の術理に
合ったものと伝えられています。
柳生拵えは尾張拵えと共通の特徴(鞘が小判型でがっしりしている、
鞘の鯉口の内側の木部を丸く厚めにしている、柄下地を薄くしている 等)を
持っていますが、特に柄の部分に大きな特徴があります。
参考作品 黒呂色塗菜種鞘柳生拵え大小
通常の柄と比べ、柳生拵えの柄は目貫の位置が逆になっている
柄の下地を作る段階で目貫の下を鋤下げている
通常の柄は棟側が円形になるが、柳生拵えの柄は柄の棟側が角張る
鬼の包丁・柳生拵えを制作する過程は、
各種SNSにて随時紹介していきます。
ぜひチェックしてみてください。